会社員ではなく単独で働く場合、フリーランスに代表される”個人事業主”を思い浮かべる方も多いと思います。
しかし、もう一つの方法として
「1人で会社を設立」
することが可能です。
そこで本記事では、
- 「1人で会社設立」ができる法人形態
- 1人社長のメリット
- 1人社長が経営で留意すべきこと
について紹介します。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
「1人で会社設立」ができる法人形態

新会社法では、4つの会社形態
- 株式会社
- 合同会社
- 合名会社
- 合資会社
が定義されています。
その中で、1人で会社を設立できる法人形態は3つです。
法人形態 | 1人で会社設立 |
---|---|
株式会社 | ○ |
合同会社 | ○ |
合名会社 | ○ |
合資会社 | × |
そして1人で会社を設立する場合、一般的に
- 株式会社
- 合同会社
から選択します。
それでは株式会社と合同会社について、会社形態を比較してみましょう。
株主会社 | 合同会社 | |
---|---|---|
英文表記 (日本国内) | Company Limited (Co., Ltd.) | Limited Liability Company (LLC) |
所有と経営 | 分離 | 一致 |
代表者 | 代表取締役 | 代表社員 |
出資者 | 株主 | 社員 |
働く人の形態 | 社員 | 職員など |
資本金最低額 | ¥1~ | ¥1~ |
役員任期 | 2~10年 (条件有) | 無し |
大きな違いは出資者の株主/社員が挙げられます。
つまり最高意思決定機関は、
- 株式会社 - 株主総会
- 合同会社 - 社員総会
になります。
次に、会社設立時のコスト(初期費用)とランニングコストについて比較しましょう。
株主会社 | 合同会社 | ||
会社設立時のコスト | 登録免許税 | 15万 | 6万 |
定款のための費用 | 5万前後 | 不要 | |
ランニングコスト | 官報掲載費 | 毎年約6万 | 不要 |
役員変更時の定款書き換え | 約6万 | 不要 |
コストは会社形態により大きな差があり、コストを抑えたいのであれば、合同会社が有利になります。
2つの表を見る限りでは、合同会社のほうがメリットが大きいと考えられますが、株式会社には”認知度”があります。
社会的な信用度を重視するのであれば、認知度のある株式会社を選択するのが良いとされています。
しかしながら近年は、
- Apple Japan
- アマゾンジャパン
- デロイト トーマツ
- アイロボットジャパン
- キャタピラージャパン
- 西友
といった大手企業も合同会社の形態を採用するケースがあり、合同会社の認知度は年々増加しています。
以上から、
- 多額の資本を集めて大きな会社にしたい
- 銀行の融資に有利な信用度が欲しい
- “株式会社 代表取締役”という肩書に憧れる
このような場合は、株式会社を選択するほうがベターです。
また、
- 小さな会社で構わない
- スピード感のある経営がしたい
- 認知度は特にいらない
このような場合は、合同会社を選択するほうがベターです。
1人社長のメリット

次に、1人社長の主なメリットを4つ挙げます。
1人社長のメリット その1 - 固定費が最小限で済む
会社を経営する上で、固定費は最も悩ませる要素です。
例えば、
- 社員を雇用した際の人件費(社会保険料、厚生年金含む)
- オフィスの賃貸費
- etc…
固定費が掛かると、その分だけ利益を出す必要があります。
その点、1人社長は人件費やオフィス代が掛からないため、損益分岐点を超える難易度が下がり、精神
的にも負担が少ない状態で事業に専念できます。
1人社長のメリット その2 -マネジメントの必要が無い
社員を雇用すると、人材のマネジメントに時間を割かれます。
経営者は、社員が最大限のパフォーマンスを発揮できるように考えますが、それでも社員に関する悩みは尽きません。
例えば、
- キーパーソン辞めてしまった
- 仕事があまりできない人を採用してしまった
- 社員の入れ替えが激しく、定着し辛い。
- etc…
このように人材に関する問題は自身のコントロールが効きません。
また勤続年数が増えれば給料を上げる必要があり、辞めてもらいたい社員を強引に辞めさせると不当解雇になる…。
この手の悩みは、雇用している社員数に比例します。
一方、1人社長は自分自身のみコントロールすればOKです。
例えば、
- モチベーションの高め方
- 仕事の効率の上げ方
- 利益拡大のための仕事内容の見直し
- etc…
これらは全てセルフコントロールすればOKのため、社員について考える時間を省くことが可能です。
1人社長のメリット その3 -スピード感のある意思決定
例えば新規事業を立ち上げる場合、即断即決で開始することが可能です。
具体的には、
- かねてからトライしたかった事業に着手
- 上手く行かないと思えば撤退
- 事業が軌道に乗り収益の目途が付いた段階で、事業を売却
- etc…
このような意思決定を組織で行う場合、当然ながら独断で決めることはできません。
組織で事業を展開している以上、自分自身の問題で片付けることはできないからです。
社員を集めて新規事業について提案すれば、反対意見が出ることもあるでしょう。
その場合、社員の意見を押し切ってまで無理に進めてしまうと、社員の士気低下に繋がる恐れがあります。
そのようなリスクを抱えてしまうと、どうしても守勢に入ってしまい、着手へのスピード感が不足します。
一方の1人社長は自分自身に決定権があるため、自分のみでリスクを負って、果敢にトライすることが可能です。
1人社長のメリット その4 -ストレスが無い
1人でビジネスを展開すれば、煩わしい人間関係に悩まされることはありません。
取引先も、相性が合わなければ無理して付き合う必要はありません。
時間も自由に使うことが可能です。
よって旅行なども社員の目を気にせず、好きな時に出掛けることができます。
精神面でのストレスが無いのは、実は最も大きなメリットと言えます。
1人社長が経営で留意すべきこと

最後に、1人社長もメリットばかりではなく、大変なこともあります。
しかしながら、予め対策しておけば大きな問題になることはありません。
そこで1人社長が経営で留意すべき項目を8つ紹介します。
マンパワー不足への対応
1人で起業した場合、全ての執務を社長自ら行わなければなりません。
一般的な会社員は自分に与えられた仕事のみ取り組んでいればOKですが、それは周りの方がサポートしてくれたから、という事実に改めて気付かされます。
事業の発展に時間を割きたいところですが、雑務に追われてしまうと仕事の効率が悪くなり、”時間が勿体無い”と思いながらこなしていると精神的にも良くありません。
そのような状況を避けるために、アウトソーシングを有効に活用しましょう。
アウトソーシングに任せる仕事内容は以下の通りです。
- 電話代行
- ホームページ作成
- 記帳代行・税務申告
- etc…
特に記帳代行・税務申告は専門的な知識が必要なため、経理の経験が無い場合は業者に外注するのが賢明です。
また早急に人手が欲しい場合は、家族にお願いして手伝ってもらうのも一案です。
そのためには、予め起業に対する理解を得ていなければ協力してもらえません。
そして、1人起業を了承してくれた家族に、常日頃から感謝の気持ちを表しましょう。
時間管理の徹底
時間は1日24時間で、誰もが平等に持っていますが、工夫次第で1日が24時間以上の価値を生み出すことが可能です。
そしてビジネスの世界では時間を如何に有効に使うかが、鍵を握ります。
そこで以下のような時間管理の方法を取り入れてみましょう。
- 時間配分の工夫
- 移動時間の節約
- 時間の節約にコストを惜しまない
- 細切れ時間の活用
特に時間配分は、集中力が高い午前中に難易度が高い仕事を済ませれば、効率的に仕事をこなすことが可能になります。
健康管理の徹底
1人で起業すれば、社長の代わりとなる人材はいません。
万が一、病気やケガで仕事に取り組むことが出来なければ、収入が入らないことも否定できません。
よって今まで以上に健康には配慮しなければなりません。
健康を維持するために、以下の対策を取り入れてみましょう。
- 健康診断を欠かさない
- 起業前に予め受診しておく
- 体力の維持
- 今まで以上に体をケアする
- 所得補償保険への加入
特に、最悪の事態を想定して所得補償保険へ加入するのがお勧めです。
プランとして、
- 1~2年間の短い就業不能状態をカバー
- 60・65歳まで長期補填
- メンタル疾患への対応
など、様々な種類が用意されています。
保険料や他の保険とのバランスを踏まえつつ、所得補償保険への加入を検討しましょう。
自身の給料 - 役員報酬
会社の規模に関わらず、必ず「役員報酬」を支払なければいけません。
1人社長の会社では、毎月社長への役員報酬の支払いが発生します。
役員報酬は、毎月定額にすれば「経費」として計上することが可能です(定期同額給与)。
経費にするには、支給額を1年間に渡り毎月定額で固定する必要があります。
金額は任意に設定できますが、変動させるのは得策ではありません。
役員報酬が低ければ法人税が高くなり、逆に高ければ社長としての所得税が高くなります。
※節税対策上、月の役員報酬が100万円台前半程度までが良いとされています。
社会保険への加入
たとえ社長1人の会社でも、社会保険への加入が義務付けられています(健康保険法第3条・厚生年金保険法第9条)。
社長は法人の代表ですが、会社から報酬を受けている場合は”適用事業所に使用される者”となるため、「被保険者」に該当します。
よって会社設立前に個人事業主やフリーランスとして活動していた方も、国民年金・国民健康保険を継続することはできません。
例外として、以下の場合は国民年金と国民健康保険に加入します。
- 社長の役員報酬が0円
- 報酬額が社会保険料を下回る
厚生年金保険への加入
厚生年金保険法第9条で、
「適用事業所に使用される七十歳未満の者は、厚生年金被保険者とする」
と定められています。
そのため、1人社長が加入する社会保険は「健康保険」の他にも、「厚生年金保険」に加入する義務が発生します。
経費
1人社長は従業員がいないため、「福利厚生制度」はありません。
福利厚生は従業員やその家族のためにあるため、1人社長の場合は食事代や旅費などは福利厚生費として承認されにくい傾向にあります。
取引先や営業先との付き合いで発生した食事代や旅費は、”会議費”や”交際費”の名目で計上することが可能です。
また福利厚生の中で社会保険に該当する「法定福利」は、1人社長でも「法定福利費」の名目で計上することが可能です。
老後への備え
起業した時点では会社員のように退職金が支給される訳ではないため、老後の生活も自分自身で備える必要があります。
主に以下の内容が挙げられます。
- 確定拠出年金
- 個人年金保険
- 小規模企業共済
特に小規模企業共済は、会社役員の退職で一線を退いた際、積み立てた掛金に相応する共済金を得る、経営者の退職金に相当する制度です。
節税が効くため多大なメリットを享受できますが、早期の解約はトータルでマイナスになる可能性もあるため注意が必要です。
税理士に相談・確認の上、手続きを進めましょう。
まとめ - 1人社長でも会社は設立できる!

会社設立に関する法改正により、1人で会社を設立できるハードルは下がっています。
よって将来的にビジネスを拡大したいのであれば、1人で会社を設立する選択が現実的です。
1人で会社を経営すれば、そのメリットを存分に享受することが可能ですが、その分だけ経営者としての自覚と、社会的なルールを遵守するなど自分自身を律する強い意志が必要になります。
これらの素養を身に付ければ、安心して1人で会社を設立することができるでしょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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